法令遵守

法令遵守から本事業を見た場合

各自治体が独自の行政判断により路上自転車駐車場を整備し、料金収受まで行っている事例が目に余るようになりました。事情があるにせよ状況がさらにエスカレートしていく傾向にあり、国民を守る立場から「責任の所在」と「義務」を明確化する必要に迫られているところまで至りました。課題解決を求める地域コミュニティからの圧力は強いとしても、対策が安易な方向に流れないようにする必要があり、国土交通省として路上自転車駐車場の容認という「規制緩和」と新たな自転車駐車場設置指針の策定という「規制」の両面で、あるべき形の路上自転車駐車場整備の方向性を示しました。そして画期的なことは、道路交通法のように交通規制を受け持つ警察・公安委員会と綿密な打ち合わせを行い、省庁間に跨る政令改正を行ったことです(後述する「道路法施行令の改正」をご参照ください)。

さらに、整備に弾みが着くように、民活事業として実施できるように、第2弾の政令改正を平成18年度中に予定しています。これは、道路管理者が駐輪設備の設置に関し、道路占用許可を交付できるように、道路占用許可基準を改正するもので、道路占用許可物件中に「駐輪設備」を含めるというものです。自転車駐車場整備事業は民間企業と自治体担当者の判断のみで事業行うにはまだまだ環境が成熟していないように考えられるため、道路占用許可を交付できる相手先民間企業に一定の制限を加える方向で検討が進んでいます。この分野を研究対象の中心に据え取り組んできたため、世間一般より厳しい見方となりますが、この分野が健全に育成するためには、当法人も国土交通省と同じく、どの民間企業でも事業主体となることができるとするのは早計ではないかと考えています。

特に、「自転車駐車場整備事業」では、民間企業側にも事業の実施主体となる際にいくつか大きな懸念があり、その課題は具体的には以下のような場面です。
・株主の存在、株主が大きく入れ替わった場合
・経営者が交代した場合
・事業又は民間企業が破綻した場合
・競争状態に晒された場合

商法下の資本主義により設立されている民間企業は、株主により成立しています。大きな企業であるほど多様な株主が存在し、それらは安定株主と言えない可能性も高まります。特に昨今では株主の意志は企業経営に大きな影響を与えるほど存在は大きくなり、会社は株主の持ち物と言われるほどです。大半の株主の興味は「株価」、「配当」です。長期的視野で企業に出資する方もいれば、当然毎期の結果責任を経営陣に求める方もおります。最近では、M&Aにより企業の独立性が失われるケースも増えてきており、選定時に優秀な企業であったとしても事業実施期間中に大きく業容が変わることも想定しなければなりません。

同様に、非常に立派な経営者が治める企業が選定されたとしても、経営者の任期が満了した場合のことを想定しなければなりません。最近では同族企業はすっかり影を潜めてしまいましたので、ほとんどの企業で選定当時の経営者が経営トップを長期間継続して全うすることはなくなりました。また、一般に「よい経営者」ほど、社内の不祥事発覚時に潔く引責されるケースが目立ち、退任後の新しい経営陣は前任者と体制を一新する、つまり新しい価値観に変貌することになります。

さらに、事業をできるということは、所有権、財産権や既得権が発生することになるため、万一事業又は民間企業が破綻した場合は、不特定の第三者にそれら既得権が転売されるなど、市場に流出してしまうことが懸念されます。商法の観点からも、それを予防する手だては見当たらないのが現状です。

また、残念ながら、「競争が発生するとモラルが低下する」ケースが目立ちます。これは、過度に競争に晒される場合ではありますが、余裕をなくすことで倫理面の欠落の要因となってしまいます。我々は、これを、「競争が発生するとモラルが向上する」となるような環境にしなければならないと考えています。これは、非常に時間と根気のいる取り組みではありますが、民活公共事業が多くに事例で成功を収めるようになるために必修の要件であるため、当法人ではすでに民間企業経営者へ啓発等を実施しはじめています。

これらの課題(特に、新たに発生する既得権の流出が懸念される。)を克服するために、PFI事業とは別に、「市場化テスト」や「指定管理者制度」等の新たな施策・仕組みを用い、民間が負うことのできる範囲の責任を仕組みの選択によりコントロールする必要があります。原則として、あくまで公共事業は自治体が行い、その「運営」を「期間」を定め、制約を付帯して委託することが好ましいと考えます。

つまり、特定の事業を例に挙げると何の前提もなく民間企業が公共事業を行えると考えるのはいくぶん早計であり、安易といえます。スキーム上では民活化の方向性に間違いはないのですが、事業には個別の考慮すべき事情を抱えているものです。少なくとも民間企業には、そこに明確な「理念」が最低限必要と考えます。形、格好を真似するだけではなく、本質が問われます。加えて、民間企業の経営姿勢に過度に期待するのではなく、行政側がリスクをコントロールできるハンドル、アクセル又はブレーキを持ち合わせることです。それに自信がない場合は、民間企業に委託する範囲を限定することです。それが責任ある公共事業というものなのです。

国土交通省における今後の方向性は、第一段階として公道上に自転車駐車場を設置できる規制緩和がなされたことを踏まえ、次の段階で、速やかな普及がなされるためのさらなる政令改正を目指しています。

これまで国、都道府県、市区町村などの道路管理者以外でも、まちづくりに取組んでいる民間非営利団体(NPO)等の公益法人に公道上に自転車駐輪場を整備できるよう道路法施行令を平成18年度中に改正する方針となっています。自治体が単独で事業を実施するより、志を持ったより多くの組織、ノウハウ、資金で実施することにより、迷惑駐輪・放置自転車問題の解消に大きく寄与させようという画期的な取り組みです。

具体的には、道路法の規定により道路上に施設などを設置して道路を継続的に占用する場合、道路管理者による道路占用許可の交付を受けることを義務付けていますが、従来、道路占用許可基準において道路占用許可を交付できる施設に自転車駐車場は含まれていないため、この改正で追加するということになります。

そして、民間の施設を占用することとなるため、同時に、道路占用許可を交付されてもいい民間について業種などの一定の制限が設けられることとなります。